唯一の涙

水野先輩は立ち上がると、私の前にしゃがんだ。
初めて会った時は、そんなに変わらなかった身長。



でも今は、私が見上げないと、先輩の顔が見られない。



成長期ってすごいな……。
頭がいっぱいの筈なのに、どこか冷静な頭の片隅でそう思った。



「俺、絶対戻って来るから」



先輩の手が、私のと重なる。



「それまで、待ってるも待ってないも……お前の自由だから」



「…先輩の馬鹿……」



「知ってる」



狡い……そんな顔で、そんな声で、言わないでよ。



『待ってろ』って言ってくれれば良いのに……。
言ってくれたら、私は……っ。



先輩は私を一瞬だけ抱き締めると、スッと腕を解いた。
何事もなかったかのように、先輩は皆の元に帰って行く。



私はただその背中を、見つめる事しか出来なかった。







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