唯一の涙

「え……私?」



そんなの無理‼‼
そう言おうとしたけど、紀衣によって遮られた。



「はい、じゃ〜決まり!小山くんはアレンジ、和歌は着付けね。二人とも、気合い入れてよろしくっ‼」



『よろしくっ‼』じゃないって……。
大体なに⁉その語尾に“☆”を付けそうな口振りっ‼‼



小山くんは実家が美容師だし、手伝いしてるらしいから大丈夫だと思うよ?
だけどね、クラスメイト諸君。



私は生まれてこの方、一度も着付けなんてしたことないんだって‼‼



自慢じゃないが、着たことすらないっ‼‼‼‼



そこんところ、ちゃんと分かってるのか……。



なんで皆そんなお気楽でいられるのよ……。
謎だ……。



授業終了のチャイムが鳴り、皆が席を立ち始める。
私は、やれやれと肩を叩きながら教壇から帰って来た紀衣に詰め寄った。



「ちょっと紀衣‼‼何考えてんのっ⁉私、着付けなんてしたことないんだけど」



「知ってる。夏祭りで一回も着て来なかったもんね」



知ってるなら、なんで止めてくれなかったんだ……。



「でも、あんたの性格上、きっちりやってくれるんでしょ?」



「……」



そりゃ、こうなった以上、やらないわけにはいかないし……。
迷惑かけたくないもん。



「私も協力するから、ね」



紀衣にそう言われて、私は漸く頷いた。






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