唯一の涙

*****

「それは災難だったな。けどさ、皆に一任されたからには、しっかりやんなきゃ駄目だぞ」



「分かってますよっ。でも…なぁ」



今日は水曜日、それ即ちNO部活ディーという事で……。
私と水野先輩は放課後デートを楽しんでいた。



「どうした?」



「着付けって結構難しくて……中々上達しないんです」



雑誌とかネットとか色々やってはみてるんだけど……。
これが、か・な・り難しい。



こんな事なら、お婆ちゃんから教わっておけば良かったな。
なーんて、今になってそう思うなんて、遅すぎるよね……。



「うち来る?俺の母さん、そういう類の大好物だし」



「え……先輩の家に……ですか?」



水野先輩の家……正直スゴイ興味あるかもっ。
でも事前に約束してなかったし、今から行ったんじゃ家の人に迷惑なんじゃ……。



むむむ……と悩んでいると、先輩が小さく吹き出した。
軽く私の頭を小突いて、優しい笑顔を向ける。



「そんな変な気遣わなくていいんだって。迷惑なんて思ってないし」



先輩は照れたように頬を掻くと、言葉を続けた。



「……それにさ、前から言われてたんだよ。『彼女いるならさっさと家に連れて来い』って。だからさ、俺にとっては願ったり叶ったりって言うか……」



先輩の言葉に顔がボッと熱くなる。
先輩の横顔も、うっすらと赤く染まっていた。





< 111 / 161 >

この作品をシェア

pagetop