唯一の涙

「じゃぁ……行きます」



「……おう」



お互いに顔を背けたまま、私達は先輩の家へと歩き始めた。
さっきまでの会話が嘘だったかのように、沈黙が続く。



だけど、幸せだった。
先輩と繋いだ手が何よりも私を安心させる。



言葉を交わさなくても、お互いを感じるものが、確かに私達にあったんだ。






「ここが俺ん家。狭いけど適当に寛いでくれな」



「…お、お邪魔します」



綺麗に手入れされた玄関に眼を取られながら、私は先輩の家に足を踏み入れた。
すごいな……隅の隅まで手入れされてたし、植物も綺麗だった。



そう言えば玄関に、一際目立つ青いお花が飾ってあったけど……なんて名前なんだろう。
何処かで聞いたことあったと思ったんだけど……。



先ず通されたのはリビング。
シンプルな家具で統一されていて、清潔感が溢れていた。



「あれ、母さんいない……?いつも大抵ここで居んのに…河原、ちょっと待ってろ」



そう言って先輩は何処かへ行ってしまった。
私はおずおずとソファーの隅っこに腰掛ける。



なんだか…落ち着かない。
緊張でどうにかなりそうっ……先輩早く帰って来てっ‼‼



ーーガチャ



「先ぱっ……ぃ」



「ん?」



「……じゃ、なぃ……」



誰……先輩のそっくりさん?
私と先輩のそっくりさんは、互いに見詰めあったまま、暫く固まっていた。





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