唯一の涙
「あの、やっぱり……」
「なに、もう限界なの?まだまだ始めたばっかりじゃん?」
「だって……ひゃっ……瞬さんの手、冷たぃ」
「我慢して……ほら、動かないで」
「ううっ……」
「ほーんと、可愛いなぁ」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼‼‼‼二人して台詞が紛らわしいっての‼瞬っ、あんまり河原に引っ付くな‼変なことしたら、いくらお前でも許さねぇからなっ‼‼」
「煩いなぁ、分かってるよそれぐらい」
そう、これは決して、甘い雰囲気の場面ではない。
あくまで着付け教室だ。
なんでも瞬さんは茶道部で、着付けが出来るんだとか……。
「まったく……彼氏ならドンと構えてなよ。ねぇ、和歌ちゃん?」
「えっ……」
瞬さん、そこで私に振るんですか……。
先輩も、そんなにじっと見ないでよ……。
「私は……先輩のそういう所がいいと思います……よ?」
「河原……」
「あらら、夏希も愛されてるねぇ〜」
真っ赤になった私達を、至極楽しげに見やる。
結局その後、先輩は一言も話さなかった。