唯一の涙
静寂感が私を襲った。
紀衣も水野先輩も黙ったままで、そんな二人に挟まれている私はかなり辛い。
もう駄目だ、この沈黙に耐え切れない。
意を決して私が口を開こうとした時、水野先輩が先に沈黙を破った。
「あのさ、自己紹介がまだだったよな?…俺、水野 夏希【みずの なつき】。2年A組で、野球部所属。よろしくな?」
恥ずかしそうに頬を掻いて、先輩は笑った。
「私は古川 紀衣。1年C組です。美術部に入ってます」
二人の視線が私に向けられた。
そんなに見なくても、分かってるよ。
「1年C組の河原 和歌です。一応、帰宅部やってます」
そう言って小さく頭を下げると、律儀にお辞儀を返してくれた。
変な人……。
「んじゃ、改めてよろしくな。古川、河原」
「こちらこそ!」
「……」
元気ね、紀衣ったら。
私達はさっきまでの気まずさが嘘のように、他愛ない会話を楽しんだ。
あっという間に感じた一時。
先輩と別れた時、悲しい気持ちになったのは、私だけの秘密だーー。