唯一の涙
二人並んで、道を歩く。
「なぁ、お前の両親って……」
言い難そうに水野先輩が私に訊ねる。
そう言えば、家の事は全然話してなかったな。
「いつも思ってた。部活で遅くなって、夜にお前を家に送り届けても、家真っ暗だよな。誰も……居ないのか?」
私は立ち止まると、小さく頷いた。
「父さんは船乗りです。だから、家に帰ってくるのは、年に数回。母さんはキャリアウーマンとして海外で働いてるんです。たまに連絡くれるけど、忙しいみたいで、長くは話せません」
そう言ったら、先輩は切なそうに顔を歪めた。
私も、きっと先輩と同じ顔してる。
ずっとそうだった。
誰かにこの話をする度、聞いた相手は悲しそうな顔をする。
まるで私が、可哀想な子だと言うかのように……。
同情や哀れみの眼で、私を見るんだ。
みんな、『一人で大丈夫?』とか『困ったことがあったら、何でも言ってね?』とか上辺だけの優しさをくれるだけ。
本心じゃない言葉で私を慰める。
それが、堪らなく嫌だった。
先輩もまた、みんなと一緒なんだろうか……。
そう思うと、胸がツキンと痛んだ。苦しい……。
先輩の顔……見れないよ。
自分の足元に目線を落として、私は、先輩の言葉を待つことしか出来なかった。