唯一の涙
文化祭の開始時間まであと十分に迫った頃、最後の子の着付けを終わらせた。
残るは自分の着付け。
着るのは五分も掛からないだろう。
でも、ヘアアレンジはもう無理かな。
いくら小山くんでも、時間は必要だろうし。
まぁ、小洒落た髪型なんて、私に似合わないだろうからいいか、別に。
いつものポニーテールでも浴衣には合うでしょ……多分。
「ーーはい、ストップ」
「わっ…!?」
パパッと自分の着付けを終わらして、呼び込み用の看板を持とうとすると、背後から誰かに腕を掴まれた。
そのまま後ろに引かれて、バランスを崩しそうになったけど、何とか堪えて私は振り向いた。
「何だよその髪。冗談だろ……それで呼び込みする気?」
「だって、もう時間ないし……小山くんだって担当あるでしょ?」
私は着付けの他に呼び込みの担当だし……。
小山くんだって、確か射的担当だったはず。
「んなの関係ないって。大体さ、俺等のクラスのヘアアレンジしてんの俺ってみんな知ってんだよね。なのに、そんな髪したお前を外に出してみ?俺が笑われるっつーの!!」
小山くんは早口で捲くし立てると、私を椅子に座らせた。
「任せとけって、最高に可愛くしてやっからさ!!」
そう言って、ものの三分経たない間に、ヘアアレンジは完成した。
ふんわりお団子に、綺麗な簪が刺さっている。
「うわーっ、和歌ってば超可愛い〜!!やっぱ元が良いとここまで輝くんだぁ」
紀衣が関心するように私を見る。
他の子も眼をクルリとさせながら私を見た。
「もーー!!そんなに見たって何にも出ないからねっ!!……あ、時間……!みんな速く持ち場に付かないとっ!!」