唯一の涙
「水野先輩……どうして此処に?」
「ん?……ちょっと気になってさ。白石達も来たいって言ってたし」
チョコバナナを受け取りながら、先輩が笑った。
先輩の笑顔を見るたびに、好きの気持ちが大きくなる。
だから、もっと私の前で笑って欲しいよ……。
「河原、今日も校門で待ってるから。先に帰ったりすんなよ」
私の頭をくしゃりと撫でると、水野先輩は他の屋台へと足を向けた。
きっと、先輩のことだから、私の邪魔をしないよう気を遣ってくれたんだろうけど。
もっと、一緒に居たいよ。
気なんて遣って欲しくない。もっと、強引にでも私の側に居てよ……。
憂鬱な気持ちのまま、私は文化祭の閉会式まで過ごした。
「和歌〜!!明日も着付けお願いね〜!!」
片付けと明日の準備を終わらせた私の背に、紀衣の透き通った声が届いた。
私は振り返らずに、二三度手を降ると、廊下を駆ける。
五分ほど前に、先輩からメールが着たばっかりだった。
速く、逢いたい……。
その気持ちに突き動かされるように、階段を駆け下りていく。
最後の一段に差し掛かった時、誰かの影が差した。
「河原…、今良いか」
「……うん」
ああ……やっぱり。
私は目を伏せると、黙って相手に頷いた。