唯一の涙

小山くんは一瞬辛そうに顔を歪めた。
でも、すぐにいつもの戯けた顔にで、


「知ってる。……だって俺、水野先輩を想ってるお前が好きになったんだから」


と笑った。


「え……?」


水野先輩を想ってる私?


「なんて言うか……人って恋してない奴よりも、恋してる奴の方が輝いて見えるんだよ。特に、相手と心が通じ合った奴らはな」


小山くんは、そう良いながら唯一あるベンチに座った。
私も彼に習って腰を降ろす。


長い間風に吹かれていたベンチは、私が思っているよりもずっと冷たかった。


「そんなお前をずっと見てきたから、告っても上手くいきっこないって頭では分かってたのに……。どうしても、言わずにはいられなかった」


乾いた風が、銀杏の葉を揺らしながら通り過ぎる。
吹き遊ばれる落ち葉を、小山くんは目で辿っていた。


「きっと、楽になりたかったんだろうな、俺。報われない片想いから抜け出したい一心で、さ」


結果……と小山くんは私に目を向けた。


「お前を苦しめることになった」


無理やり作った彼の笑顔に、私の胸は締め付けられる。


確かに、小山くんからの告白は、私にとって嬉しいものではない。
だって、彼の気持ちに応える事は出来ないのだから。


【苦しい】


確かに、今の私にはその言葉がピッタリと当て嵌まるのかもしれない。


「小山くん……確かに今私は苦しいよ。でもね、それだけじゃないんだ」


私はそっと立ち上がると、身体半分を小山くんに向ける。


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