唯一の涙

お泊まり


文化祭も無事に終わって、数日後の昼下がり。
窓には水滴が激しく流れ落ち、外の風景を遮断していた。


稲妻が走る。
何人かの女子が、短い悲鳴を上げた。


「これ、本格的にヤバイよね。警報出てないの?」


少し青い顔をした紀衣が、私の裾を引っ張った。
どうなんだろうね、と曖昧な返事をして、窓の外を見やる。


なんでも、台風が近づいているらしい。


登校前は小雨程度で、警報どころか注意報も発令されていなかったのに、今はこの様だ。
溜息を飲み込んで、私は机に頬杖をつく。


その時、バタバタと慌ただしい足音が、廊下から響いて来た。
みんな只事じゃないと、視線がドアに集まる。


教室に飛び込んできたのは、担任の先生だった。
よっぽど慌てていたのか、前髪が乱れている。


「午後の授業は中止だ!これ以上雨が酷くなる前に帰りなさい!!」


先輩の言葉の後、大きな雷鳴がした。
紀衣が耳を塞ぐ。


「紀衣、急いで支度しな。ほらっ、ケータイ。中村先輩に送ってもらいなよ」


私は早口でそう言うと、ケータイを紀衣に押し付けた。


私も帰る支度をする。
鞄に必要最低限のものを詰め込むと、それを待っていたかのように、ケータイがなった。


メールだ。


【送るから、靴箱で待ってろ】


短い文章だったけど、高ぶった私を安心させる。
すぐに返事を送ると、教室を飛び出した。


< 130 / 161 >

この作品をシェア

pagetop