唯一の涙
「先輩!!」
『待ってろ』なんて送ってきながら、先輩は既に靴箱の前で私を待っていた。
ゆっくりと振り返った先輩と目が合う。
「すげー雨だな。河原、傘持って来た?」
コクンと幼子のように頷いて、折り畳み傘を見せる。
先輩は満足げに頷くと、私の傘を開いた。
「先輩、傘忘れたんですか?」
「いや……持って来たけど白石に貸した。持って来てないって、煩いぐらい騒いでたし」
思い出したのか、先輩がふふっと笑った。
外は思っている以上に風が強くて、立っているのがやっとだった。
先輩がそんな私を見兼ねて、肩を抱き寄せて支えてくれる。
ただでさえ一つの傘で狭いのに、こんな事されたんじゃ、心臓もたないよ……。
今日は少し肌寒い筈なのに、顔は真夏のように暑い。
「もう少しだ。河原、大丈夫か?」
「た、多分。大丈夫で……す」
横からの雨に降られて、私も先輩も酷く濡れていた。
私の家まであと数メートル。先輩の家まではあと数百メートル。
先輩、身体冷えないかな……。
風邪とか引かないよね……。
一抹の不安を抱えていると、今日一番の雷が落ちた。
流石の私も固まってしまう。