唯一の涙
「今のは大きかったな……河原、今日も家一人だろ?大丈夫か?」
顔の雫を拭いながら先輩が私を覗き込む。
み、水も滴るいい男が……目の前にっ!!
ドキドキする胸を抑えて、私は頷いた。
「一人ですけど、私なら大丈夫ですよ?一人なんて、いつものことですから」
「……」
私のセリフに何故か眉を寄せて、不機嫌になる先輩。
あ、れ?先輩ってば、なんでそんな顔してるんだろう。
気に障ること言った覚えはないんだけどな……。
気まずい空気にも関わらず、ゴロゴロゴロゴロっ!!っと、容赦なく雷雨がわたしと先輩を襲う。
「先輩、これ以上酷くなる前に帰った方が良いですよっ。みんな心配しているだろうし……」
脳裏に浮かぶのは、にこにこスマイルを浮かべる水野ファミリーのみんな。
大好きなお兄ちゃんが風引いて帰ってきたら嫌だよね。
私は軽く、先輩の背中を押した。
「そうだな、早く帰らないとだよな」
なにやら呟く先輩。
何かを決心したのか、先輩が勢いよく振り返った。
ガシッと手首を掴まれる。
「お前も来い。この分だと明日も休みだろうし、俺んちに泊まってけ」
「……はっ!?」
ちょっ、えっ……まっ……。
声にならない叫びを上げる。
先輩はそんな私には眼もくれずに、全速力で雨の中を走り続けた。