唯一の涙

「あらあらあら……二人ともびしょ濡れねぇ」


玄関に佇むのは、髪も制服もびしょびしょに濡れた私と先輩。
そんな私達はお互い無言のまま、茜さんの呆れた眼差しをただじっと受け止めた。


「母さん、タオル持って来て。あと河原に着替え」


茜さんの背後には、奏ちゃん同様眼を丸くした空くん。
因みに、奏ちゃんは階段の上から私達を見下ろしている。


水野先輩に急かされた茜さんはパタパタと音を立てながら、何処かの部屋に消えて行った。


「先輩、泊まりなんて、そんな……」


「いいんだよ。こんな日に一人にさせたくないし、それに」


先輩は一旦言葉を切ると、私の耳元に口を寄せた。


「もっとお前と一緒にいたい」


「っ……!!」


ずるいよ、先輩。
一緒にいたいって思ってるのは、先輩だけじゃないのに……。


私だって、一秒でも長く、先輩に寄り添っていたいのに。


「あらあらあら……熱いわねぇ、私の若い時そっくりだわぁ〜」


ふふふっと含み笑いを浮かべながら、茜さんは私にタオルを手渡した。
まさか、今の聞かれてた?


てゆーか、いつからそこにっ!?


私の心を見透かすように、茜さんはまたふふふっと笑うと、リズムを刻みながら去って行った。


恥ずかしい……あんな所を人に見られるなんて、一生の不覚っ!!


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