唯一の涙
「河原、風引くから早いとこ着替えろ。脱衣所はそこの突き当たりだからさ」
先輩はわしゃわしゃと髪を乾かしながら、何処かに行ってしまう。
「…クシュっ!!」
ちょっと冷えてきちゃったかな。
先輩の言うとおり、このままじゃ風邪引くかも。
私は出来るだけ水滴を拭って、脱衣所に向かった。
茜さんの用意してくれた服に着替えて、取り敢えずリビングに向かう。
「和歌ちゃん、服のサイズどうだった?」
お玉を片手に持った茜さんがひょっこりと顔を出す。
いい匂いが台所から香ってきた。
「ピッタリです。あの、制服……」
「いいのいいの、置いとておいてっ。夏希の分と一緒に乾かしとくから」
茜さんは顔を引っ込めると、コマーシャルソングを口遊む。
茜さんって、見てて飽きないな。ころころ表情が変わって面白いし……。
笑ってるところしか見たことないけど、茜さん、大丈夫なのかな。
離婚のこととか……全然顔に出さないけど。
やっぱり辛いよね。
会った事もない先輩のお父さんだけど、先輩を見る限り良い人なんだろうなって思う。
そんな人と、茜さんの離婚。
何か問題が合ったに違いない。
「ねー、遊ぼう」
シャツを引かれて視線を落とすと、ゲームのコントローラを持った空くんが私を見上げていた。