唯一の涙

「やけに盛り上がってんな〜。なに?奏のやつ全敗記録更新中なのか?」


部屋着に着替えた先輩が前髪の雫を飛ばしながら、奏ちゃんを茶化す。


「なによっ!!」


奏ちゃんはキッと先輩を睨むと、コントローラを投げた。


「……っ!?」


間一髪。顔に当たる前に先輩が受け止める。
受け止めた事が不服なのか、奏ちゃんは頬を膨らました。


「危ないだろ馬鹿!顔に当たったらどうすんだ」


「当たれば良いじゃん……本当っ、夏希の馬鹿!!少しは瞬くんを見習いなよね!」


瞬くんって先輩の一個上の従兄弟だったよね。
あの日以来会ってないや。文化祭のお礼言えてないし……。


「なんでここで瞬の奴が出て来るんだよ」


奏ちゃんの頭を軽く叩いて、私の横に座った。
肩がぶつかりそうなぐらい近い距離。


心臓が面白いぐらい跳ねた。


「河原、対戦やろうぜ。俺、奏よりは強いから全力でこいよ」


「……い、言われなくても全力でやりますからっ」


先輩ってば、こんなに近いのに、全然普通じゃん。
ドキドキしてるのは私だけ?


ちょっと傷つくなぁ。


心の中で溜息を吐いて、私はコントローラを握り直した。


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