唯一の涙
ふと、隣にいる茜さんを盗み見る。
「ーーー」
茜さんは、今までに見た事のない顔をしていた。
儚くて、今にも口元に浮かぶ微笑みが消えてしまいそうで。
近くにいるのに、遠く感じる。
孤高の花って言うのかな。
茜さんの纏うオーラが、私なんかよりもずっと透き通っていて、輝いている。
「これね、私のアルバムなの」
茜さんは大切そうに表紙を撫でた。
「一緒に写ってたのは、私の旦那様……。離婚が成立したら、元旦那様になるのかしらね」
感情を殺しているのか茜さんの横顔は、何も感じさせない。
でも、何故か胸が締め付けられた。
聞いても、良いのかな。
どうして離婚するんですか?って。
茜さんを見る限り、まだ旦那さんのこと想ってるよね……。
「玄関にお花飾ってあるんだけど……和歌ちゃんも見たことあるわよね?」
玄関に飾ってあるお花…。
そう言えば、見たことあるや。
確かあれって、普通のお花じゃなくてプリザーブドフラワーって言うんだったよね。
「あの花の名前はね、勿忘草っていうのよ。花言葉は【誠の愛】」
茜さんの言葉は、私に向けたものではなく、自分自身に言っているように思えた。
玄関に飾られた、青い花。
きっとあの花は茜さん達の思い出の花なんだろうな。
大切な思い出の花なんだ。