唯一の涙
それきり茜さんは黙り込んでしまった。
私は、時間が経ってすっかり苦くなった紅茶を飲む。
この時ばかりは、紅茶の苦さも一種の薬のように、胸の奥に染みていく。
「アッツ〜〜!!!」
パタパタと慌ただしい足音が廊下から響いたと思えば、思いっきりリビングの戸が開かれた。
湯気を漂わせた空くんが、冷蔵庫一直線で走って行く。
「おい、空。ちゃんと髪乾かさないと風邪引くぞ」
「あらあら、空〜。ちゃんとドライヤーで乾かしてよ〜。こらッ、ラッパ飲みしないでっていつも言ってるじゃない‼‼」
茜さん……いつもの茜さんだ。
子供の前じゃ、一人の母親だもんね。
くよくよなんてしてられない。
その意地が、今にも崩れ落ちそうな茜さんを支えてるんだ。
「河原「和歌ねーちゃん、ドライヤーやって!なっ、いいでしょ?」」
先輩の言葉を遮って、空くんが私にドライヤーを押し付けた。
「あっ……先輩」
無言で空くんを睨んでいる先輩。
空くんは軽く受け流すと、私の膝の上に座った。