唯一の涙
「有難うございます」
茜さんにお礼を言って、早速二階へ上がった。
一番右端にあるのが、奏ちゃんの部屋……と。
あっ、あったあった。プレートがあるから分かりやすいや。
その隣の部屋に空くんのプレートがあるから、一番左端が先輩の部屋かな。
「奏ちゃん、入るね」
ノックしてドアを開けると、勉強机に向かう奏ちゃんの背中があった。
忙しなく、シャーペンが文字を刻む。
「和歌さん……布団そこだよ。私、まだ終わりそうもないから、先寝ててね」
「うん、ありがと。奏ちゃん、先輩の部屋って一番左端?」
そう言うと、奏ちゃん背中がピクリと反応した。
顔半分が、私の方に向けられる。
「そうだよ。行ってもいいけど、襲われないよう気を付けてね」
う”、からかわれてる。
奏ちゃんってば、私の反応みて楽しんでる。
私は赤くなった顔を隠すように、部屋を出た。
寝ているであろう空くんの部屋の前を、抜き足、差し足、忍び足で通って、先輩の部屋の前に立った。
「先輩……起きてますか」
平然を装ってノックするけど、若干声が上ずった。
「入っていい」
「し、失礼します」