唯一の涙
眼の奥がカッと熱くなった。
辺りから音が消えて、自分の心臓の鼓動だけが、煩いぐらいに頭に響く。
そんな私を見透かしたように、先輩が私を引き寄せた。
すっぽりと先輩の腕に包まれる。
恥ずかしいけど、何よりも心地良くて、ずっとこうしていたいと願わずにはいられなかった。
「私、先輩が思っているほど素直じゃありません。皆からはクールとか飄々としてるとか、色々言われるけど…本当は違うんです。嫉妬もするし、寂しいって思う。先輩と会えなくなるなんて、考えられない」
無言で先輩は腕の力を強めた。
少し苦しいけど、その苦しささえも愛おしい。
「だけどそれ以上に、先輩と別れたくないって思うんです。簡単に会うことは出来なくても、電話でしか先輩の声が聞けなかったとしても、それでも先輩の彼女でいたい」
グッと先輩の胸を押して、私は赤くなった顔を先輩に向ける。
先輩の眼の淵が赤かった。
「先輩、好きです。遠距離なんて関係ありません、これからもずっと、私の隣でいて下さい」
分かってる。
遠距離がどんなに辛いものなのか。
誰だって最初は辛くても、まだ笑っていられる。
けど、時間が経てば経つほど、空虚感が心を襲い、何度も何度も【別れ】という選択を迫られる。
その時、私達がどんな選択をするのか想像もつかないけれど。
いまのこの感情を優先したい。
この気持ちが本物だっていうことは確かだから。
眼に見えない先の未来よりも、今この瞬間を強く、誠実に生きて行きたい。
先輩と、心のままに……。