唯一の涙
勿忘草
ケータイが鳴った。
画面に【紀衣】と表示される。
「もしもし、どうしたの。もう日付け越えちゃってると思うんだけど」
言いながら時計に眼を向けた。
時刻は12:13。
『こっちの台詞よ。眠れないんじゃないかと思って……いよいよ明日ね』
「……うん」
明日、先輩がこの町から出て行ってしまう。
もう、簡単には会えなくなるんだ。
『寂しい……?なんて……寂しくないわけないか』
寂しいかと聞かれれば、私は頷く。
でもやっぱり、実感が湧いてこなくて、私は黙ったままだった。
もしかしたら、明日も明後日も。
朝6時、ジャージに着替え、キャップを片手に玄関の扉を開ければ、先輩がいる。
そんな気がしてならないんだ。
『和歌、あんたは昔から人前で弱音吐かなかったから、今回もそうなんでしょうけど……私、いつだって和歌の話聞くからね。辛くなったら、いつだって会いに来なよ」
「ありがと、紀衣。……私、そろそろ寝るね。先輩と約束してるし、寝不足の酷い顔で会いたくないもん」
『そっか……楽しんで来なよ。水野先輩と、陽が暮れるまで遊んで来なっ。じゃね‼』