唯一の涙
「紀衣にまで心配されちゃったな……」
ふと、外の空気が吸いたくなって、窓を開けた。
どの家もみんな寝静まっているようで、空の星がはっきりと見えた。
そう言えば、最後に空を見上げたのはいつだったっけ…?
もう長い間、星空なんて見ていなかった。
私が知らないだけで、星達はこんなにも美しいんだ。
深く息を吸った。
冷たくて、爽やかな空気が肺に送られる。
何の花の香りだろう。
さらっとした甘い風が、何処からか靡いた。
「早いなぁ……」
先輩と改めて付き合うことを決めた、あの雨の日から今日までの約五ヶ月間。
あっという間だった。
私はこの五ヶ月間、先輩に何をしてあげられた?
何を伝えられた?
「……やだな。私ってば、貰ってばっかりじゃん」
コルクボードには先輩との写真が飾られている。
私はその一つ一つに眼をやった。
文化祭。
後夜祭のフォークダンス、恥ずかしかったけど、楽しかったね。
先輩の家にお泊まりして、皆で遊んでいるところ。
奏ちゃんには悪いけど、先輩のゲームの腕には舌を巻いちゃった。