唯一の涙
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午前9時
約束の場所には、先輩がいた。
私を見つけて、嬉しそうに手を振ってくる。
「先輩、早いですね」
「まぁな。楽しみだったし、昨日なんて遠足気分でろくに寝れなかったよ」
小学生のような先輩に思わず笑いが零れた。
先輩もそんな私につられて、笑い始める。
「今日はちょっと遠出しようと思ってさ。だから待ち合わせ場所も駅前にしたんだ」
いつもなら、先輩と私の家のちょうど中間にある橋の上が、待ち合わせ場所だった。
ここを指定してきた時、変だなとは思ったけど……。
そういう訳だったんだ。
納得。
電車に乗って揺られること一時間。
見たこともない駅に着いた。
あちこちに眼をやる私を他所に、先輩は一人、前へ前へと歩いて行く。
「先輩っ‼」
正気に戻って先輩を追い掛けた。
「こんなとこで迷子になるなよ。ほらっ、手」
先輩は自然な仕草で私の手を取ると、また歩き始める。
さっきよりも歩調が遅くなって、私の事を気遣ってくれてるんだって思った。
それが嬉しくて、ギュッと先輩の手を握り締めた。