唯一の涙
「うわぁ……海だ……」
海に来たのなんて初めてだ。
私の住んでいるところは内陸だし、家族があんなだから行く機会なんてなかった。
「風冷てぇな……河原、寒くないか?」
「平気です。むしろ気持ち良い……」
これが磯の香りなのかな。
心がスッとする。なんだろう、こんな気持ち初めてだ。
「もっと近く行こうぜ。ほらっ‼」
「わっ……ちょっ、先輩⁉」
誰もいない海辺。
この綺麗な景色を先輩と一緒に過ごせるなんて。
これ以上にない幸せだよ……。
小波を感じながら、先輩と二人並んで歩いた。
会話に花を咲かせながら、私たちは時間が許す限り二人だけの時間を過ごした。
「結構喋ったなー。なんか喉渇かねぇ?」
「そう言えば、渇いたかも……。この近くにカフェありましたよね、そこ行きませんか?」
「ああ。小腹も空いたし、ついでになんか食おうぜ」
海の近くにカフェはあった。
小さいけど、それなりに繁盛しているみたい。
「いらっしゃい。二名様ですね、お好きな席へどうぞ」
メガネを掛けた大学生ぐらいの女の人が、笑顔で迎えてくれた。
軽く会釈を返して、窓際の席に座った。