唯一の涙
勢い余って、先輩のネクタイを掴んでしまった。
気づいて離した時にはもう遅い。
何本かの皺がくっきりと浮かび上がっていた。
あっちゃー、やっちゃった。
まぁ……いいか。帰ってアイロンあてれば大丈夫でしょ。
「それじゃ水野先輩。気をつけ「却下」はっ?」
「却下って言ってんだよ。俺が迎えに来てやるっていってんの。お前は黙って俺を待ってろ、分かったか?」
「……」
目の前には、先輩の整った顔。
いつの間にか肩を掴まれていて、ちょっと動いただけではびくともしない。
いや、どんなに暴れても無理だろう。
身長差なんて少ししかないのに、男と女の体力差はここまで大きいなんて。
不公平だ…こんなの。
「返事は?」
ぐっと睨まれた。
だけど私も負けじと睨み返す。
「い・や・です‼」
「お前なぁ……」