唯一の涙
お互い無言で睨み合うこと数秒……。
「分かりました。先輩が来るの、待ってます」
先に折れたのは私だった。
張り詰めていた空気が一瞬にして溶けた。
どちらからともなく、笑いが漏れる。
「最初っからそうやって素直に頷いておけ。んじゃ、またな」
「さよなら」
あいさつ程度に頭を下げて、玄関の戸を開けた。
戸越に走る足音が聞こえて来る。
あっという間に遠ざかって行く足音に、言いようもない寂しさが込み上げてきた。
どんどん大きくなっていくそれを、溜息と一緒に吐き出してみる。
「…アジがあったから、フライにしよっかなぁ」
何かを紛らわすかのように、私はタンタンっとリズム良く、階段を駆け上った。