唯一の涙
「野球が好きなら、マネージャーになればいいのに。募集してたでしょ」
「マネージャーなんてゴメンだよ。私は見るのが好きなんであって、やりたいとか、関わりたいとかそう言うんじゃないんだから」
私の日課は、放課後の誰もいなくなったこの教室で、野球部の練習を見ること。
いつから始めたのかなんて、憶えてないけどね。
「和歌って保育園の時から全然変わってないよね」
「まぁね。でも、紀衣も人のこと言えないと思うよ?」
眼だけ紀衣に向けて言った。
そんな私に応えるように、小さく笑った紀衣。
「否定はしない。…私、今日はもう帰るけど、あんたはまだいるんでしょ?」
「うん。ちゃんと戸締まりしとくから安心して、委員長サマ」
「煩い」
容赦なしのデコピンを喰らって痛みに悶える私を他所に、紀衣は颯爽とした足取りで帰って行った。