唯一の涙
先生は最後に私を見つめると、声を出さずに笑った。
「今日から、お前も俺の部の部員だ。遠慮なくいかせてもらう」
さっきと違って妖しく笑う先生を、私は怖いと思った。
冷や汗とは違う、気味の悪い何かが背中を伝う。
どうやらこの先生の元ヤン説は本当だったらしい。
絶対チームの頭やってたわ、この人。
先生は名簿を私に差し出した。
受け取って、全体を見通していく。
「取り敢えず今日は、部員全員の名前を憶えろ。まずはそこから「大丈夫です」…何だと?」
私は先生の言葉を遮って、読み終わった名簿を返した。
「野球部全員の名前なら、もう既に頭に入ってますから」
そう言うと、先生は驚いたという風に、目を見張った。
この顔、レアだ。
写メを撮って見せびらかしたいけど、そんなことしたら絶対殺される。
「なら、テストだ。うちのスタメンを1番から順に言ってみろ」
楽勝。
我知らず笑みを漏らすと、大きく息を吸った。