唯一の涙
水野先輩は、なんの前触れも無く立ち上がった。
悪戯が暴露た子供のように、笑ってみせる。
「白石!いやさ、河原の反応が一々面白いからつい悪ノリして……」
悪ノリ?からかわれてたの⁉
やっぱり先輩って最低‼
拳を震わせていると、また誰かの気配を感じた。
「どうでもいい。それより着替えれば?遅刻になったら洒落にならないし」
無関心という言葉がピッタリ当てはまりそうな人が、私から白石先輩を引き剥がした。
「痛いなぁ、もうちっと優しく出来んのん?イケズね、石神くんってば‼」
「黙りなよ」
この人、助けてくれた?
「ありがと、ござぃます……?」
正直、肩に乗せられた腕が重くて、うっとおしいと感じていた。
この人はそんな私に気付いたの?
「でも石神って、なんだかんだで待ってくれるよな」
楽しそうに水野先輩は言うと、更衣室に走って行ってしまった。
にこにこと柔らかい笑みを浮かべる白石先輩と、絶対零度の眼差しで難しい本を読む石神先輩。
この人たちに挟まれている私は、どうしろと?
帰るに帰れないじゃん。
私だってジャージだし着替えなきゃいけないのに。