唯一の涙
「ねぇ、君は遅刻になりたい訳?」
「へっ…」
石神先輩は、本から目を離して、私に目を向けた。
感情も何も感じない冷たい目だけど、私はその瞳の奥になにかがあるように憶えた。
「着替えなよ。それとも何?その格好で授業受ける気なの」
「あ……着替えて来ます」
「危なっかしいなー河原ちゃん、大丈夫か?なんなら、俺が着替えさせたるけど?」
白石先輩、その冗談はキツイです。
下手したら、犯罪ですよ。
女子トイレの中で素早く制服に着替えた。
鏡の前で最終チェックをしてトイレから出ると、三人はあの場所で立っていた。
もしかしなくても、私待ち?
慌てて三人の元へ走った。
「すいません、遅くなって……」
「本当だよ」
容赦ない石神先輩の言葉が、頭の上に落ちる。