唯一の涙
河原 和歌(かわはら わか)
それが私の名前。
この名前は、死んだお爺ちゃんが付けてくれたんだって、中学校の時にお母さんが教えてくれたんだ。
和歌を詠むのが大好きだった祖父。
だから【和歌】
そんな単純な理由で名付けられたって知った時、若干落ち込んだのを今でも憶えている。
高校一年、五月。
新しい環境にも慣れてきた頃、私が気付かない所で少しずつ何かが動き出した。
ゆっくりと、だけど確実にそれは近づいていた事を、この時の私は知る由もない。
そんな私を嘲笑うかのように、何処からか吹いてきた風が、私の髪を弄んで、何処かに消えて行った。