唯一の涙
「石神〜、河原ちゃん、仲良くせんとなぁ。はいはい、握手握手」
空気の読めない白石先輩が、私と石神先輩の手を絡めた。
全身に悪寒が奔る。顔の筋肉が固まるのを感じた。
なんか、やだっ。
「馬鹿石‼俺ら先行くからな」
「うわっ……⁉」
意外にも、普段温厚な水野先輩が白石先輩を怒鳴りつけた。
今まで聞いたことのない低い声。全身が縮こまる。
「み、水野先輩?」
先輩に掴まれた手首が痛くて声を掛けるけど、先輩の耳には届いてないようだった。
大股で部室まで歩く先輩の半歩後ろを、駆け足で追い掛ける。
「あんまり…触らせんな」
前を向いたままの先輩が、消えそうな声で呟く。
下手をすれば聞き落としそうな小さい声だったけど、確かにそう聞こえた。
「触らせるなって……白石先輩にですか?それとも石神先輩に……⁉」
前を歩いていた筈の先輩が、度アップで私の眼に映った。
手首にあったはず先輩の手が、両肩に移動して。
先輩は言った。
「俺以外の男に触らせんなよ」