唯一の涙

「着替えた者から、位置につけ。河原、五時から飯の支度を始めてくれ」



部室の前には、既に着替えた藤堂先生が仁王立ちで立っていた。
黙っているだけでも怖いのに、ギンギンに睨みを効かせられたら怖いどころの話じゃない。



なるべく眼を合わせないように返事をして、ジャージに着替えた私は自転車に跨る。
野外ランニングの時、私は自転車で先頭として走る事になっている。



坂道が多いからと電動自転車を貸してくれた先生。
顔と性格のギャップが半端ないのが我が野球部の藤堂先生だ。



点呼が終わったのを確認して、ペダルを踏み締めた。



「それじゃ、行きます。頑張りましょうー!」



約5キロの道のり。短いようでも、道が道だから学校に帰ってくる頃にはクタクタ。
電動自転車にのっている私でさえ、汗をかいて息が乱れる。



初めてランニングに参加した時、筋肉痛が凄かったっけ。



私もやっとランニングコースに慣れてきたのか、軽々と最初の難関をこえ、第二第三の地獄を無事通過。



「ラスト1キロ!!」



私の声を掻き消すかのように、部の掛け声が一段と大きくなった。


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