唯一の涙
それから就寝時間までは早かった。
近くの銭湯に皆で行って帰って……少ししたらもうお休みの時間。
忙しい一日は一瞬に感じられた。
「水野先輩、白石先輩お休みなさい」
「お休み」
「一人じゃ淋しいやろ?添い寝したろか〜」
「馬鹿石‼」
相変わらずの白石先輩に、顔を真っ赤にして怒る水野先輩。
取っ組み合いをしながら部屋に入って行く二人を横目に、目の前の相手を軽く睨んだ。
「何か、御用ですか?い・し・が・み先輩?」
「君って本当に良い性格してるよね。あの二人の気が知れないよ」
眼鏡を掛け直しながら、石神先輩が冷たく言った。
普段はコンタクトの先輩。
寝る前と勉強する時だけ眼鏡になるらしい。
「けどそんな二人が、先輩は好きなんですよね?」
私の言葉に、先輩のポーカーフェースが崩れた。
ほんの一瞬。
しかも分かりにくいほど小さいものだった先輩の変化を、私は簡単に見抜く事が出来た。
案外、分かりやすいのかもしれない。
「生意気だね、君」
「先輩も相当だと思いますよ」
お互いに睨み合って、それぞれの部屋に入って行った。