唯一の涙
「……心配しなくても、マネージャーは何もしてない。俺、相手の眼ぇ見て話すのが苦手って言うか……傷つけたんなら謝るよ」
ちらっと顔を上げて、錦君が恥ずかしそうに頬を掻いた。
なんだ、そうだったんだ。
私、嫌われてなかったんだ。
良かった……!
錦君も良い人みたいだし、彼となら仲良くなれるかも。
そう思った私は、錦君に積極的に声を掛けた。
最初はどもり気味だった錦君も、私に慣れてきたのか、眼を見て話してくれるようになった。
「錦君、そろそろ練習参加してもいいんじゃない?行ってきなよ」
好物を前にしてお預けを喰らっていた子犬のようだった彼の顔が、一瞬のうちに輝いた。
錦君は律儀に頭を下げた後、グラウンドに走って行ってしまう。
本当に野球が好きなんだ。
錦君だけじゃない。
水野先輩も白石先輩も、嫌味しか言わない石神先輩だって皆野球が大好きなんだ。
そして私もまた、彼らと同じ。
教室の窓から一人で見ていたあの頃よりも、ずっとずっと、野球が大好き。
この時ばかりは、私は水野先輩に感謝した。
私がマネージャーになったきっかけを作ってくれた彼を、心の底から感謝した。