唯一の涙
外をみれば、もう大分日が傾いている。
今日も何もなければ良いけど……。
あ、れ……?
私ってば、なんでそんなこと心配してるんだろう。
何もないに決まってるんじゃん……!
よく分からない不安が、頭を過った。
大丈夫……だよね。
なんの根拠もないのに、心配する必要なんてない。
私は一人、広くも狭くもない厨房へと歩いて行ったーー。
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「ーーおいっ、大丈夫か⁉河原‼早く来てくれっ……‼」
昨日となにも変わらないと思っていた。
でも、違った。
あの時の嫌な予感が当たったんだ。
私は、酷く焦っている水野先輩の元に駆けつけた。
水野先輩の周りには人集りが出来ていて、通り抜けるのも容易ではなかった。
人集りの中心でいたのは、石神先輩。
苦しそうに荒い呼吸を繰り返す先輩は、誰が見てもヤバイと感じるだろう。
「先輩、揺らさないでっ、誰かっ、藤堂先生を呼んで‼すぐ病院へ連れてかないと…それから、石神先輩のご両親にも連絡を‼」
それまで固まっていた人集りが、息を吹き返したかのように動き出した。
いち早く我に帰ったキャプテンの名瀬先輩を筆頭に、それぞれ散った。
「石神先輩、分かりますか⁉大丈夫ですから、もう少しの辛抱ですからねっ」
声を掛けながら、石神先輩の額に手を当てた。
「……っ‼」
ひどい熱……っ。
一体いつから。どうして私、気づかなかったんだろう。
選手の体調管理だってマネージャーの仕事なのに……!
気付けなかった自分が憎いっ……。