唯一の涙

「俺はもう戻るからな。あいつらの事もあるし…河原、お前はどうする」



車の鍵を手に、先生が言った。



どうする?って事は、……いいんだよね、我が儘言っても……。



「私、ここに残ります。他の人たちには迷惑かけるかもしれないけど、今先輩を一人にしたくないから」



先生はベットで眠る石神先輩と私を交互に見た後、ふっと小さく笑った。
先生の大きな手が、私の頭を掴む。



「お前、石神のこと苦手なんじゃなかったか?暇さえあれば、喧嘩してただろ」



そりゃしますよ。
先輩、私にだけ変に偉そうだし、態度でかいし、嫌味だし、腹黒だし、生意気だし、天邪鬼だし……。



嫌いだけど、今まで会った誰よりも大っ嫌いだけど……‼
あんな性格でも、たまに見せてくれる小さな優しさが、素直に嬉しいから……。



「喧嘩友達には早く良くなってもらわないと。先輩が良くならなきゃ、私は誰と喧嘩しろって言うんです?」



先生はここが病院と言うことを忘れたのか、大声で笑い出した。
私の頭の上にある手は、乱暴にかき混ぜられて……。



廊下を歩いていた看護師のおばさんに『煩い』と怒られ、これでもかと言うほど撫で回された髪はボンバーになり……。



最悪だ……心の中で思った。



「じゃ、明日の朝迎えに来る。石神、お前は年上なんだから、ちゃんと河原のお守りしてくれよ」



先生はそう言うと、何事も無かったかのように踵を返した。





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