唯一の涙
「……⁉」
先生が出て行ったドアの前で私は固まった。
“石神”って言ったよね、先生。
私じゃなくて石神先輩に話し掛けてた。
間違いない、もしかして先輩……。
「起きてたんですか?」
「悪い?君らがバタバタ煩いから、眼が覚めたんだけど」
まさかの狸寝入り‼
つーか何で藤堂先生気付いてんの?
ずっと私と喋ってたし、先生は先輩に背中を向けてたのに……。
何かで先生に負けた気がする。
私はベットの横に置かれた椅子に腰を下ろした。
石神先輩は私が座るのを見て、起き上がろうと身を起こし始める。
「無理して起きないでください。寝たままで結構ですから」
「君なんかに気を遣われるなんて、自分が情けないよ。本当に……」
この人って、病気の時ですら口の悪さだけは健在なんだ。
今だけでも大人しくしてたら、可愛げもあるっていうのに……。
「何その顔?腹立つんだけど」
全然っ可愛くない‼‼
落ち着けっ、落ち着け私っ‼
手が出そうなのを必死に抑えて、深呼吸。
相手は病人相手は病人相手は病人‼‼‼‼‼‼‼‼‼