唯一の涙
「そうそう、先輩のご両親には連絡しておきました。『大丈夫』だって言ったら、お二人とも安心したみたいで……明日になったら、また合宿に戻れますからね」
兎に角話題を変えようと、頭に浮かんだ言葉をそのまま出した。
「そう」
先輩の眼に曇りが浮かんだのを、私は見逃さなかった。
「先輩……?」
「何?」
いつもと同じ、冷たい声。
だけど今は、冷たいという言葉よりも、何かを諦めたような悲痛な声という言葉が当てはまる気がする。
「先輩……お節介だと思うんですけど、何故そんな顔をするんですか?」
先輩は無言で私を睨みつけた。
今まで以上に強く、鋭利な眼差しを容赦なしに向けられて、思わず拳を握り絞める。
初めて石神先輩が、恐いと感じた。
「何で君なんかに言わなきゃいけないの?」
「知りたいからです。先輩と初めて会った時から、気になってました。なんでそんな悲しい眼をするんだろう…って」
本心だった。
最初はただの気のせいだと思ってたけど、この合宿で確信したんだ。
先輩のあの悲しげな眼差しをーー。