唯一の涙
「母さんの遺体を警察が預かってる……って」
「い……たい……?」
頭を何かで殴られたみたいだった。
グワン……グワン……と鈍い音が、頭の中で響く。
「母さん、海で飛び込み自殺したんだって。……最低だよ、自分が赦せない。
母さんがそこまで追い詰められていたなんて、全然気付かなかったんだ。部屋に引きこもっている時思ったよ、自分が母さんを死に追いやったんだ……って」
そんなこと、ない。
そう言いたかったけど、私の声が言葉として出ることはなかった。
「父さんは自分を責めて、俺に何度も頭を下げた。
『こんな自分に俺を育てる権利はない。叔父さん叔母さんのもとで暮らしてくれ』って……母さんの妹夫婦に養子として出されたんだ。
新しい両親には子供がいなかったから、良くしてくれたよ。けど、俺が高校生になったと同時に、二人は俺から離れて行った」
電話の内容を思い出した。
先生曰く、二人とも仕事で来られないって……。
「これが、俺が誰にも言いたくなかった事だよ。聞けて満足した?」
先輩が無理に笑ってみせる。
私はそんな先輩に耐え切れなくなって、先輩を抱き締めた。
「……どういうつもり……同情してくれてるわけ?」
私は首を横に振った。
そんなんじゃない。同情なんかで私はこんな事しない。
「じゃあ……何「先輩が、泣いてるから……」……はっ?」