唯一の涙
「何言ってんの。俺のどこが泣いてるって?」
「泣いてますよ……先輩……私がいますから、そんな悲しそうな顔で笑わないで」
ぎゅっと、先輩にしがみ付くように腕に力を込めた。
少しでも力を緩めたら、先輩が消えてしまいそうで恐かった。
「君には……敵わないよ……」
暫くすると先輩の体が細かく震え始めた。
そして、ゆっくりと私の肩が先輩の涙で濡らされていく。
私の背中に先輩の両腕が回されて、私はそれに応えるように、優しく背中を摩った。
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「もう大丈夫か、石神」
「はい、心配かけました」
朝一番に迎えに来た藤堂先生の車に、私たち二人は乗り込んだ。
昨日の事もあって、お互いの間に気まずさが生まれる。
「どうした、今日は喧嘩しねぇのか?」
「「ええ……まぁ」」
先生は息ピッタリの私たちに噴き出して、アクセルを踏み込んだ。
20分という時間が異様に長くて、息が詰まりそう。
窓の外の景色でも見て気を紛らわせようか。
そう思った時、コロンと、私の手に飴玉が転がされた。
ピンクの可愛らしい飴玉の持ち主は、他でもない石神先輩。
驚きが隠せなくて、何度も飴玉と石神先輩を見る。
先輩は照れ臭そうに笑って、いつもの嫌味を口にした。