唯一の涙
「それ一個分だけ、君の事認めてあげるよ」
「……あっそーですか」
私は両手で飴玉を握り締めた。
先輩の言葉が嬉しくて、頬が緩んでいくのが堪え切れなかったから。
あの嫌味な石神先輩が私の事を認めたなんて、夢でも見ているんじゃないかと思ってしまう。
それぐらい、嬉しかった。
「ーー着いたぞ、お二人さん」
明らかに私たちを面白がっている藤堂先生が、ブレーキを踏んだ。
私は慌ててポケットに飴玉を突っ込んだ。
「河原、全員連れてランニング行って来い。石神は待機して、俺の手伝いをしてくれ」
先輩は不満そうだったけど、素直に頷いた。
私は先生に言われたとおり、ランニングの準備をする。
倉庫から自転車を引っ張り出していると、誰かが近づいて来る足音がした。
何度も聞いた足音。
持ち主はきっと、
「ーー河原!!」
やっぱり。
「水野先輩…!おはようございます。石神先輩なら先生と一緒にいますよ」
先輩は頬を掻くと、眉を下げて微笑んだ。
「知ってる。俺、二人が歩いてくの見てたから」
「いいんですか、行かなくて」
一番心配してたし、誰よりも真っ先に会いに行くもんだと思ってた。