唯一の涙
「ごめんねっ‼いきなりで、和歌ちゃんもびっくりしたよね?」
顔の前で両手を合わせて、謝る先輩。
私は自分でも分かるほどのぎこちない笑顔を浮かべる。
「いいえ。それより、どうして私の名前を先輩が知ってるんですか?」
私、有名人になった覚えなんて、欠片もないんだけど。
同じ学年の子ならともかく、先輩なんてさ。
へんだよ。
「なっちゃんから聞いたの。あ、なっちゃんって言うのは、和歌ちゃんと同じ野球部の“水野 夏希”。……知ってるでしょ?」
「はい、もちろん。と言うことは、水野先輩が私のことを蓮美先輩に?」
何故に?
そりゃぁ、好きな人が私の話をしてたらちょっとは嬉しいけど……複雑でもあって……。
何を言われたのか、すごい気になる。
「大丈夫っ、悪口とかじゃないから‼なっちゃんったら、いつも和歌ちゃんの自慢話するんだよ。
まるで自分のことみたいに話すんだから」
蓮美先輩の言葉に胸がトクンと跳ねた。
でもそれと同時に、何かが胸に引っ掛かる。
「なっちゃんに和歌ちゃんの話聞いてたら、実際に会ってみたくなっちゃって……。
話の通り、和歌ちゃんって可愛いねっ‼」
「……どうも」
この人、よくそんな恥ずかしい台詞が言えるな……。
私とは大違いだ。
素直っていうか、ストレートっていうか。
直球主義者なんだ。
「蓮美先輩って水野先輩と仲良いんですね」
先輩は小さく頷いて、笑った。