唯一の涙
その子の名前は河原 和歌ちゃん。
私より一つ年下の娘で、なっちゃんと同じ野球部のマネージャーさんらしい。
頑張り屋で、何事も一生懸命。
優しくて、どんなに辛くても顔には出さなくて、絶対泣かない……そんな娘なんだってなっちゃんは言ってた。
あんまり楽しそうに話すもんだから、私も実際に話してみたくなって……。
部活の開始時間より早めに登校して、和歌ちゃんの姿を探した。
忙しなく彼方此方に走り回る和歌ちゃん。
ランニングにも嫌な顔一つしなくて、誰から見ても和歌ちゃんの頑張りが眼に見える。
和歌ちゃんはあんまり表情が外に出ないタイプ見たいだけど、笑う彼女は誰よりも可愛くて、見ている私まで自然と笑顔になった。
走り回っていた所為か、無造作に跳ねた髪、滴り落ちる汗。
その姿はお世辞にも綺麗とは言えないけど、その辺でお洒落して着飾っている女の子達よりも、和歌ちゃんの方が何倍も魅力的に思えた。
ふと、彼女が一人自転車を持ってこっちに近づいて来る。
話しかけるなら今しかないけど、あと一歩が出ない私。
早くしないと、和歌ちゃんが行っちゃう。
窓ガラス越しに和歌ちゃんを目で追っていると、視線がバチッと合った。
咄嗟に頭を下げてみると、和歌ちゃんも返してくれた。
それが嬉しくて、私は教室を飛び出したーー。