唯一の涙
「……せん…ぱい」
煩いくらいに心臓が暴れる。
私のものとは思えないほど、声が震えた。
水野先輩は、喋らないまま両腕に力を込めた。
全身で先輩を感じる。
恥ずかしくて、苦しくてどうしようもなかったけど、それ以上に幸せで……。
私はそっと眼を閉じた。
「……悪い。いきなりあんな事して」
「え……」
『悪い』……?
それって謝ってる?誰に……?
私に?
「嫌だったよな、好きでもない奴にされるなんて……」
『嫌だった』?
私が?
そんな訳ない、好きな人に抱き締められるのが嫌な人なんて、いない。
恋愛に疎い私でさえ、こんなにもドキドキして嬉しかったんだから。
「先輩「俺さ……」……」
先輩の言葉を撤回しようとしたけど、他でもない先輩に遮られた。
先輩は行こうと眼で促すと、私の一歩先を歩き出す。
私は先輩と肩を並べると、先輩の言葉を待った。