唯一の涙
ずっと俯いていた先輩と、視線がぶつかる。
一瞬にして、私は先輩の腕に包まれた。
先輩の香りが、鼻腔を擽る。
「……すげぇ嬉しい」
「先輩、苦しい…」
先輩は、悪いと言いながらも、力を緩めることはなかった。
私もあんな事言ったけど、緩めて欲しくなんかない。
もっともっと、先輩を感じたかった。
私は、震える両手で先輩のシャツにしがみついた。
この時間が永遠に続いたらいいのに……。
なんて、子供染みた願いを胸に、今、この瞬間を先輩と感じた。
高校一年、初夏ーーー
初恋の人との恋が実った瞬間だった。