唯一の涙
「隠してたわけじゃないよ?ただ、和歌ってば最近忙しそうだし……なかなか言う機会がなくて……。ずっと黙っててゴメンね」
「別に謝るような事じゃないって。中村先輩と付き合ってるってことを教えてくれなかっただけで、私が紀衣のこと嫌いになったりするわけないじゃん」
胸に擦り寄って来る紀衣の頭を撫でて、編みかけのミサンガを見た。
高校最後の試合……か。
「中村先輩、三年生だもんね。サッカー部だっけ」
「うん。先輩、ミサンガ貰ってくれるかな」
いつになく弱気な紀衣。
いつもの紀衣は私のお姉ちゃんみたいなのに、自分の恋のことになると、こんなにも頼りない妹になるんだ。
「中村先輩の彼女は紀衣なんでしょ?なら、絶対貰ってくれるよ…先輩のこと、大好きなんでしょ?」
幼子のように頷く紀衣。
俯いた紀衣の顔をゆっくり持ち上げて、私と視線を合わせた。
「じゃ、信じなきゃ。ミサンガもちゃんと編んで先輩に付けさしなよ。ミサンガは彼女の特権でしょ?」
紀衣はうるうるの眼を擦ると自分の顔にビンタした。
爽快な音が、部屋に響く。
真っ赤に腫れた紀衣の頬。
「ありがと、和歌‼大好きっ」
「…はいはい。その言葉は私よりも、中村先輩に言ってね」
紀衣……きっと中村先輩も紀衣のこと想ってるから。
ミサンガ、絶対渡せるからね。
私はまたミサンガを編み出した紀衣の邪魔をしないように、静かに部屋を出た。