唯一の涙
お互い、無言のまま時間だけが過ぎていく。
何だろう……すごく気まずい。
私ってば、今までどうやって先輩と話してたっけ?
先輩にドキドキを悟られないように、私はりんごジュースを飲んだ。
緊張しすぎて、味が分からない。
甘い筈なのに、水を飲んでいるみたいだった。
「あーー!!もうやめようぜ、こう言うの!!」
ダンッ!!と、トマトジュースのコップを叩き置くと、先輩は頭を抱えて机に突っ伏した。
先輩の綺麗にセットされた髪から、真っ赤な耳がちらりと見えた。
先輩も、緊張、してるんだ。
「俺も河原も意識し過ぎだって。もっと楽にいこうぜ」
先輩の上目遣いに思わずクラっとくる。
無意識でやってるんだろうけど、こういうのは心臓に悪いって。
「先輩は打たないんですか?」
石神先輩と白石先輩の爽快な打球音が聞こえてくる。
先輩だって打ちに来たんだ。本当は打ちたいはず。
「ん?…そうだな、んじゃ行くか」
先輩は立ち上がると、会計を済まして、私の手を取った。
堂々とした先輩のペースに私は流されるしかなかった。
「先輩。私の分出します。いくらでした?」
財布を取り出して見せると、先輩は眉を寄せて、軽く私の額を小突いた。
「彼女の分くらい出すさ。いいから、黙って奢られてろ」