唯一の涙
「…彼女……?」
私が、先輩の……彼女……なんだ。
「そっ、俺の彼女。なんだよ、そんなに嫌?」
拗ねたような先輩の声色に、私は先輩の腕にしがみついた。
「彼女がいいです…先輩の……っ」
私より少し高い身長の彼。
あり得ないぐらい近い距離に先輩の顔があって、全身がカッと熱くなった。
馬鹿、私っ。
引っ付き過ぎだって‼
此処がバッティングセンターということ。
頭では分かっていても、周りに気を遣えるほど、私は大人じゃない。
「お二人さん、ええ雰囲気のとこ悪いけど、そんな所立たれたら、営業妨害以外の何者でもないで〜?」
至極笑顔の白石先輩。
「邪魔」
冷徹眼の石神先輩。
居た堪れなくなった私は、ベンチに腰を降ろして、先輩はバッターボックスに立った。
白石先輩と石神先輩の溜息が、ダイレクトに耳に入る。
まぁ、それもその筈だよね。
だって、二人して私の隣に座ってるんだもん。
聞きたくなくても聞こえてくるよ。