唯一の涙

「…彼女……?」



私が、先輩の……彼女……なんだ。



「そっ、俺の彼女。なんだよ、そんなに嫌?」



拗ねたような先輩の声色に、私は先輩の腕にしがみついた。



「彼女がいいです…先輩の……っ」



私より少し高い身長の彼。
あり得ないぐらい近い距離に先輩の顔があって、全身がカッと熱くなった。



馬鹿、私っ。
引っ付き過ぎだって‼



此処がバッティングセンターということ。
頭では分かっていても、周りに気を遣えるほど、私は大人じゃない。



「お二人さん、ええ雰囲気のとこ悪いけど、そんな所立たれたら、営業妨害以外の何者でもないで〜?」




至極笑顔の白石先輩。



「邪魔」



冷徹眼の石神先輩。



居た堪れなくなった私は、ベンチに腰を降ろして、先輩はバッターボックスに立った。
白石先輩と石神先輩の溜息が、ダイレクトに耳に入る。



まぁ、それもその筈だよね。



だって、二人して私の隣に座ってるんだもん。
聞きたくなくても聞こえてくるよ。




< 75 / 161 >

この作品をシェア

pagetop