唯一の涙
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「先輩……!手、痛いです……っ」
バッティングセンターからだいぶ走って、私達は河川敷に来ていた。
先輩はずっと下を向いたまま速歩で歩いていたけど、私の言葉にピタリと足を止めた。
「あ、悪い……」
「いえ…先輩、私」
白石先輩とのことを謝ろうとしたら、先輩は紅くなった私の手首を優しく握った。
思わず言葉を飲み込む。
「手、跡になったな」
「平気ですよ、時間が経てば直ぐに消えちゃいます」
先輩があんまりにも悲しげに言うもんだから、私は慰めるように明るく振る舞った。
先輩は何かを躊躇うように、視線を落とす。
「先輩……?」
先輩は無言で笑うと、河川敷に腰を降ろした。
私も座った方が良いよね。
遠慮がちに、先輩と一人分の間を開けて座る。
「もっとこっち来いよ」
先輩の意外に逞しい手に引かれて、私と先輩の距離がぐっと縮まる。
恥ずかしさを隠すかのように、私は口を開いた。
「あの、私の所為で白石先輩と喧嘩しちゃって……私、それ謝りたくて。ごめんなさい」
すると先輩は眼を見開いて、首を傾げる。
「別に、喧嘩なんてしてないけど。あんなの何時ものことだし……」